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東京地方裁判所 昭和46年(刑わ)6234号 判決 1972年10月17日

主文

被告人村沢務を懲役三年に、被告人三戸幸次郎を懲役一年二月に、被告人岸本一正を懲役一年に各処する。

被告人村沢務に対し、未決勾留日数中一八〇日を、被告人三戸幸次郎に対し、未決勾留日数中七〇日を右各刑に算入する。

被告人岸本一正に対しこの裁判の確定した日から三年間右刑の執行を猶予する。

訴訟費用中、証人大原秀雄、同石塚長男に支給した分は被告人村沢務および分離前の相被告人松倉輝男の連帯負担とし、国選弁護人横尾邦子に支給した分は被告人岸本一正の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

第一、被告人村沢務は、松倉輝男と共謀のうえ、阪急建設株式会社代表取締役宮原次郎から、坂本忠次ほか約八〇名の所有にかかる東京都八王子市戸吹町一、二五九番およびその周辺の山林等合計122,869.41平方メートルの売買手附金名下に金員を騙取しようと企て、昭和四五年三月一一日頃右山林等に右宮原を案内し、被告人村沢において、その場で同人に対しその事実がないのに、右山林等を売却するためその一部についてはすでに買収がすみ、残余についても地主の大半から売約を得ている旨の嘘をついて、売却できる見込みがないのにあるように装い、「坪単価八、〇〇〇円で買取つて欲しい」と言つて右山林等の売却を申入れ、同人をして真実被告人村沢がその言うとおり右山林等の売却の準備を整えているものと誤信させ、よつて、同年同月一四日頃、大阪府大阪市大淀区中津浜通一丁目四番地の一五阪急建設株式会社において、瀬戸昌人を介して、右宮原から右山林等の売買手附金の一部受領名下に同社振出の金額一、〇〇〇万円の約束手形一通の交付を受け、さらに、同年同月二〇日頃、神奈川県横浜市港北区篠原町一、四五一番地中央住宅建設株式会社において、被告人村沢において、右宮原に対し、若林茂ほか八名(すべて架空人)作成名義のいずれも右山林等の所有者としてこれを被告人村沢務に売渡すことを承諾する旨を記載した文書九通を真正なもののように装つて示し、同人をして、真実被告人村沢が右山林等を売却できるものと誤信させて、被告人村沢を売主、阪急建設株式会社を買主とする右山林売買契約書に同代表者として署名押印させたうえ、同年同月二四日頃、前記阪急建設株式会社において、右瀬戸を介して右宮原から右売買手附金残額受領名下に同社振出の金額合計一、二〇〇万円の約束手形五通の交付を受け、いずれもこれを騙取し、

第二(一)  被告人村沢務、同三戸幸次郎は、松平こと鈴木二郎と共謀のうえ、日本道路公団の印章を盗捺して右公団作成名義の土地買収決定の通知書を偽造しようと企て、行使の目的をもつてほしいままに、被告人村沢が、昭和四六年二月一七日頃、東京都新宿区新宿四丁目一四番地東城ビル内文化タイピスト学院において、情を知らない同学院経営者入江輝に対し、案文を示してタイプを依頼し、同女をして、かねて入手しておいた日本道路公団の起案用紙に、日本道路公団が熊本県熊本市春日町字北長谷平一、七三九番地外九〇筆、二〇九、三八八平方メートルの土地を3.3平方メートル(一坪)あたり二四、〇〇〇円で買収することを決定したから昭和四六年四月三〇日までに所有権移転に必要な書類を完備するよう通知する旨の、同年二月一七日附村沢務宛の通知書と題する文面をタイプさせたうえ、右鈴木が、同年同月一九日頃、東京都豊島区巣鴨一丁目二八番一二号内田荘内の鈴木の居室において、右通知書と題する書面の中央空白部分に印刷用活字を用いて日本道路公団と記載し、その下部に、都内の印章店で購入した「調達用地部部長麦田晴彦」なる記名ゴム印、「調達用地部印」なる角印および「麦田之印」なる丸印をそれぞれ冒捺し、もつて偽造の印章署名のある日本道路公団調達用地部長麦田晴彦作成名義の前記通知書一通の偽造を遂げ、

(二)  被告人村沢務は、同年三月二一日頃、東京都港区新橋二丁目二〇番地新橋駅前ビル一号館株式会社比良野において、同社代表取締役平野勤に対し、前記第二、(一)の偽造にかかる通知書一通を真正に作成されたもののごとく装つて提出して行使し、

第三、被告人村沢務、同岸本一正は、藤倉治行と共謀のうえ、

(一)  昭和四六年三月一〇日頃、熊本県熊本市新屋敷一丁目一四番一九号司法書士高野覚事務所において、行使の目的をもつてほしいままに、売渡承諾書用紙一枚の、売渡物件表示欄に「熊本市春日町字北長谷平一、七三九番地外九拾壱筆、宅地・山林・原野二〇九、三八八平方米」、条項欄に「3.3平方米(一坪当り)金壱万四千円也」、日付欄に「昭和四六年三月一〇日」、所有者住所・氏名欄に「熊本市黒髪町坪井七三〇尾上武敏」、名宛人欄に「村沢務殿」と万年筆でそれぞれ記入し、右尾上武敏の名下に同市内の印章店で購入した「尾上」なる印を冒捺し、もつて偽造の印章署名のある尾上武敏作成名義の売渡承諾書一通の偽造を遂げ、

(二)  続いて、同年同月同日、熊本市下通町一丁目三番一〇号株式会社大洋デパートにおいて、行使の目的をもつて、ほしいままに、情を知らない同デパート店員に対し、前記第三、(一)の偽造にかかる尾上武敏作成名義の売渡承諾書を手交してそのゼロックス複写を依頼し、同デパート店員をしてゼロックス複写機を用いて右売渡承諾書の複写二通を作成させ、もつて尾上武敏作成名義の売渡承諾書の写し二通の偽造を遂げ、

(三)  同年同月一八日頃、前記第二、(二)の株式会社比良野において、同社代表取締役平野勤に対し、前記第三、(二)の偽造にかかる売渡承諾書の写し二通のうち一通(昭和四七年押第二一四号の三)を真正に成立したもののごとく装つて提出し行使し

たものである。

(証拠の標目)<略>

(法令の適用)

一、被告人村沢務について。

同被告人の判示第一の所為は包括して刑法六〇条、二四六条一項に、第二、(一)の所為は同法六〇条、一五五条一項に、第二、(二)の所為は同法一五八条一項、一五五条一項に、第三、(一)の所為は同法六〇条、一五九条一項に、第三、(二)の各行為はいずれも同法六〇条、一五九条三項(偽造の署名印章のあるいわゆる有印私文書をゼロツクス複写機にかけ、その写を作成したときは、右写のなかに存する原本の作成名義人の署名印章の記載はすでに文章の内容をなし、写の作成名義についての明示の表示はなくなるけれども、通常、写は原本の作成名義人によつて作成され、あるいは原本の作成名義人の依頼ないし承諾のもとに作成されたものとみなされるが故に、右の写は原本の作成名義人の作成名義で、かつ、その署名印章のないいわゆる無印私文書と認めるべく、従つて、本件において写の作成行為は刑法一五九条三項の無印私文書偽造罪に該当する。)罰金等臨時措置法三条(但し、刑法六条、一〇条により昭和四七年法律第六一号による改正前のものを適用する。以下同じ。)に、第三、(三)の所為は刑法六〇条、一六一条一項、一五九条三項、罰金等臨時措置法三条にそれぞれ該当するところ、第二、(一)と第二、(二)の各罪との間には手段結果の関係があるので、刑法五四条一項後段、一〇条により犯情の重い第二、(二)の罪の刑で処断することとし、第三、(二)の各所為は一個で二個の罪名に触れる場合であり、第三、(二)の各所為中第三、(三)の罪において行使された無印私文書の偽造罪と第三、(三)の罪との間には手段結果の関係があるので、結局同法五四条一項により最も犯情の重い第三、(三)の罪の刑で処断することとし、第三、(三)の罪の所定刑中懲役刑を選択し、以上は同法四五条前段の併合罪であるから同法四七条本文、一〇条により最も重い第二、(二)の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で同被告人を懲役三年に処し、同法二一条を適用して未決勾留日数中一八〇日を右の刑に算入し、訴訟費用中証人大原秀雄、同石塚長男に支給した分は、刑訴法一八一条一項本文、一八二条により同被告人および分離前の相被告人松倉輝男に連帯して負担させることとする。<以下略>

(船田三雄 杉山伸顕 井深泰夫)

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